まんぼう日記

takataka's diary

レナードの朝

(2014年12月28日に転載: 旧「まんぼう日記」を発掘 - まんぼう日記 )

 

オリバー・サックス 著、石館康平、石館宇夫 訳 「レナードの朝」 昌文社 読了

 

嗜眠性脳炎の後遺症により数十年もの間半昏睡状態の患者たち。彼らは、「奇跡の薬」L・ドーパの投与によってその眠りから突如「めざめ」る。しかしそれもつかの間、彼らはありとあらゆる「混乱」のるつぼの中に引き込まれ、やがて様々な形で病気に「適応」してゆく…。

 

同名の映画(残念ながら見たことありませんが)では患者の一人レナードにスポットが当てられているそうですが、この本には二十人の脳炎後遺症およびパーキンソン病患者の症例が描かれ、また人間の存在そのものにせまる深い考察が記されています。

 

たかたかがもっとも心を動かされたのは、心の底に癒されることのない深い傷を抱き、救いようのない絶望へと追いやられた患者たちが、生きる意志を失い静かに死にゆくさまでした。著者は、人間的なふれあいを奪われた孤児たちについての記録を引いて、次のように注釈を加えています。

 

幼い、あるいは非常に歳をとった、そして重い病気の、あるいはきわめて退行した人びとを対象とした同様の研究は、人間的な接触が文字どおり決定的に重要なこと、そしてもしこれが欠けていると人間は滅びてしまうこと-たよるべきものがなければより早く確実に-、そしてこの意味では、死は第一に、なににもまして実存的な死、つまり「生への意志」の死であり、これこそが肉体的な死へと道を開くものであることを示している。

(訳者あとがきより)

 

同時に、悲惨な経験を強いられた患者たちが、肉親や友人との間の信頼関係、まかされた仕事、一鉢のサボテン、時には幻覚の中の人物に支えられ、癒されてゆく過程にも感銘をうけました。

 

「病という悲惨な人間経験をあつかいながら、おどろきと啓示に満ちた愛の書であるともいえるだろう」

(同上)